33.メールがチャットに!新しいコミュニケーションのかたち「Delta Chat」 new!

見た目はチャット、中身はメール
Delta Chatは、ドイツで開発されたオープンソースのメッセージアプリです。LINEのような直感的なチャットインターフェースを持ちながら、メールプロトコル(SMTP/IMAP)を基盤に動作するため、既存のメールアドレスで利用可能です。追加の専用サーバーは不要で"チャットの使い勝手"を実現できます。本稿ではDelta Chatの簡単な紹介と、ほかのサービスとの違いやメリットデメリットを比較していきます。
メッセンジャーアプリは導入したいけど、LINEはやりたくない
日本では依然としてLINEが主流ですが、2021年の海外技術者によるデータアクセス報道や、2023年の40万件以上の個人情報漏洩(出典)により、データ主権やプライバシーへの懸念が高まっています。こういった背景もあり、代替メッセンジャーアプリの採用も進んでいます。それでは、2025年現在で代替候補になるオープンソースやアプリを比較してみましょう。
観点 | Delta Chat | Signal | Telegram | Session | |
---|---|---|---|---|---|
連絡先の作り方 | メールアドレス(既存のIMAP/SMTPサーバーを使う)。 | 電話番号で登録(相手もSignalが必要)。 | 電話番号で登録(相手もTelegramアカウントが必要)。 | 番号・メール不要鍵ベースID(相手もSessionが必要)。 | 電話番号で登録(連絡先ベース)。 |
既定の暗号化 | E2EE可(Autocryptで自動設定/双方がDelta Chatのとき)。 | 常時E2EE(1対1・グループ)。 | 既定は非E2EE。 1対1のSecret ChatのみE2EE。 |
1対1・小規模E2EE。 公開コミュニティはE2EEではない。 |
常時E2EE(1対1・グループ/Signalプロトコル)。 |
サーバー構造 | あなたのメールサーバー(IMAP/SMTP)。 | Signal財団の中央集権型。 | Telegram社の広域分散型。 | 分散ノード網(OxenServiceNodes/Swarms)。 | Meta(WhatsApp LLC)の中央集権型。 |
オフライン配達 | メール準拠:サーバーに届けば後で受信。 | サーバーキューから再受信。 | クラウド保管→再接続で受信。 | 相手IDのスウォームへ一時保存(TTL/冗長化)。 | クラウド保管→再接続で受信。 |
大規模公開配信 | ML風の構成で可。 | 公式の大規模コミュニティ機能なし。 | チャンネル多数(既定は非E2EE)。 | SOGS(自前)/E2EEではない。 | コミュニティ/チャンネル(チャンネルは原則非E2EE)。 |
向いている場面 | 既存メール資産の活用(監査・保存)。 | 堅牢E2EE+運用しやすさ。 | 広報・拡散重視(機微は避ける)。 | 匿名性・検閲耐性を最優先。 | 一般利用の裾野が広い/業務連絡や家族連絡。 |
主要な国(開発/運営) | ドイツ(merlinux GmbH/OSSコミュニティ)。 | アメリカ(Signal Foundation / Signal Messenger LLC)。 | アラブ首長国連邦(本社:ドバイ)。 | スイス(Session Technology Foundation) 発祥:オーストラリア(OPTF) |
アメリカ(Meta/WhatsApp LLC)。 |
※ E2EE = End-to-End Encryption(エンドツーエンド暗号化)。
※ Telegram/WhatsAppの「チャンネル/ブロードキャスト」は原則非E2EE。機微は通常チャット(E2EE)や他ツールで。
※ Sessionの公開コミュニティ(SOGS)は自前サーバー運用で、保管時はE2EEではありません。
このようにSignalやTelegramなどの代替アプリも存在しますが、独自プロトコルによる互換性の欠如や、中央サーバーへの依存が課題です。Sessionは電話番号やメールが不要で独自鍵ID発行、さらに分散ノード網と課題をクリアしているように思えますが、お互いにアプリを導入する必要があり、基本的にエンドツーエンドも1対1を想定しています。表にない例を挙げるならば、Slackはメール互換性がなく中央集権・課金型。Microsoft TeamsはM365との親和性に長けている反面、中央集権・課金型でクラウドとプランへの依存が必須です。
DeltaChatは、メールの分散型構造を活用することで、これらの課題を解決します。中央サーバーに依存しないため単一障害点がなく、例えば災害時でもネットワークが利用可能な限りは通信が可能です。また、若年層に親しみやすいチャットUIを提供しつつ、ビジネス層で標準的なメールとも互換性があるため、幅広い層をシームレスに繋げます。世界中で数十億人が利用するメールのユーザー基盤を活用することで、DeltaChatは大きなシェアを獲得する可能性を秘めています。
Delta Chatまとめ
- 相手がDelta Chatでなくても通常メール状態で届くので外部互換性・到達性がある
- 既存のメールアドレス・サーバー・迷惑メール及びウイルスメール対策をそのまま継承できるため乗り換えコストが少ない
- アーカイブ・ジャーナルなど記録が残るためガバナンス・監査に強い
- メール習慣の延長で使えるため導入・教育が楽
- AutocryptでE2EEが自動立ち上がり&端末紛失時もメールのパスワード変更やアカウント停止が可能なためセキュリティ強度が高い
- 中央サーバーを新規に持たず、既存の冗長化設計を活かせるためレジリエンスがある
といった感じで、まさに「メールの良いところ」がそのまま長所になるのです。メールが"少しフォーマル寄り"の扱い方をされていたところ、Delta Chatで"気軽に、早く、軽く"回せる側面も両方備えられるのが最大の特長と思われます。
動作環境など
E-POST Mail Serverを含む既存のメールサーバー(SMTP/IMAP)で動作します。
対応OS
Android: Android 5.0以降
iOS: iOS 14以降(iPhone 6s、iPad 5/Air 2/Mini 4以降)
Windows: Windows 10以降
macOS: macOS 10.15 Catalina以降
Linux: Ubuntu 18.04、Fedora 29、Debian 10など主要ディストリビューションに対応
Ubuntu Touch: Ubuntu Touch 16.04(コミュニティによる対応)
DeltaChatアプリはこちらから
出典
- 日本経済新聞 (2023年11月27日) 記事タイトル: 「LINEヤフー、個人情報44万件超が流出か アプリ利用者情報など」
内容: LINEヤフーは2023年11月27日、第三者による不正アクセスにより、LINEアプリの利用者情報など最大で約44万件の個人情報が流出した可能性があると発表。流出した情報には、利用者の年代、性別、LINEスタンプの購入履歴などが含まれ、個人を特定できる情報(氏名、電話番号、銀行口座、クレジットカード情報、トーク内容など)は含まれていないとされています。原因は、韓国NAVER Cloudの業務委託先のパソコンがマルウェアに感染し、LINEヤフーとNAVERが一部システムを共通化していたため不正アクセスを受けたこと。 - 朝日新聞 (2023年11月27日) 記事タイトル: 「LINEヤフーの個人情報流出 韓国経由で不正アクセス、44万件か」
内容: LINEヤフーは、約44万件の個人情報が流出した恐れがあると発表。うち39万件は実際に流出したことを確認。流出した情報には、利用者の年代、性別、通話の利用頻度など20項目以上が含まれ、通信の秘密に該当する情報約2万2千件も流出した可能性がある。原因は、韓国IT大手ネイバーの傘下企業の委託先がサイバー攻撃を受けたことによる。 - NHK (2024年2月14日) 記事タイトル: 「LINEの利用者情報など情報漏えい51万件余に拡大 LINEヤフー」
内容: LINEヤフーは、2023年11月に公表した約44万件の情報漏洩が、調査の結果、約51万9千件に拡大したと発表。流出した情報には、利用者や取引先の個人情報が含まれ、原因は韓国NAVERの業務委託先がサイバー攻撃を受けたことによる。 - 個人情報保護委員会 (2024年3月28日) 記事タイトル: 「個人情報保護委員会、LINEヤフーに勧告 個人データ流出で」
内容: 個人情報保護委員会は、2023年9月14日から10月27日の間にLINEヤフーが不正アクセスを受け、最大約52万件の個人データが漏洩したとして、LINEヤフーに行政指導(勧告)を行った。内訳は、ユーザーに関する個人データ約30万2980件、取引先に関する個人データ約8万6211件、従業者に関する個人データ約13万315件。
補足
漏洩件数の変動:
当初、2023年11月にLINEヤフーが発表した漏洩件数は約44万件でしたが、2024年2月の調査で約51万9千件に拡大し、最終的に個人情報保護委員会の報告では約52万件とされています。この変動は、調査の進展によるものと考えられます。
流出内容:
流出した情報には、LINEのユーザー内部識別子、サービス利用履歴(スタンプ購入履歴、性別、年代など)、取引先のメールアドレス、従業者の氏名や社員番号などが含まれますが、メッセージ内容、銀行口座、クレジットカード情報は含まれていないとされています。
原因:
韓国NAVERの子会社(NAVER Cloud)の業務委託先がマルウェアに感染し、LINEヤフーとNAVERが共通の認証基盤を使用していたため、LINEヤフーのサーバーも不正アクセスを受けたことが主な原因です。
公式発表:
LINEヤフーの公式サイトでも、2023年11月27日および12月27日に不正アクセスによる情報漏洩に関するお知らせが掲載されており、再発防止策の進捗状況が報告されています。